早く気がつけば、良かったのだ。
正午を過ぎてはいるが、まだ14時、いくら林の中でも暗すぎる。そう感じてはっと頭上を見上げたときにはもう、空の青色はどこを探しても見あたらなかった。その代わりと言わんばかりに、無防備な頬に落ちてくる、ぽつん、とした衝撃。
…水だ。しかも大粒の。
まずい、と全速力で走り出したが、程なくして、天気は無情すぎるほどの大雨になってしまった。
幸い、大木の下に駆け込んだのでそれほど濡れずには済んだ。しかし、1時間待っても雨はちっとも弱まらない。恐らく夕立でないこれが止むのは、早くても日が暮れる頃だろう。もしかしたらそれよりさらに遅い時間になってしまうかもしれない。
「…そんなわけで、林の入り口にいるから、迎えにきてほしいんだけど…」
事情を説明して、ヒカリはちょっと後ろめたそうに、申し訳なさそうにそう呟く。
しばらくして、彼女のポケギアから、短いため息の音が零れた。呆れているのが目に見えるようである。
電話の相手であるシンジは、少し間をおいてからはっきりと言い放った。
『……馬鹿だろう、お前』
「なっ!彼女に向かってそれはないでしょ!?」
『何だろうが関係ない。折りたたみすら置いていったくせに』
「う…」
痛いところを突かれてしまい、ヒカリは目を泳がせる。確かに出かけるとき大きめな雲が多かったが、ところどころ隙間が開いているし、それにまだ朝だから大丈夫だろうと甘く考えて、部屋に折りたたみ傘を置いていったのだ。これは明らかにヒカリが悪い。
さらにいうなら、もっと強く文句を言われても仕方ない状況でもあった。こんな雨の中を歩いてきたらシンジだって濡れてしまうのだから。
…しかし、迎えにきてもらわなければ困る。
気温が下がり、肌に触れる空気はどんどん冷たくなっている。ヒカリの体は時折震えるようになっていた。早く帰らないと、確実に風邪をひいてしまう。
『どうせ上着も持って行かなかったんだろう』
「ええ、どーせ持って行ってないわよっ」
すぐ傍で聞こえる雨音と、電話の向こう側で鳴る雑音が混ざってだいぶ聞き取りづらかったが、シンジが鼻で笑ったのが分かり、ヒカリは苛つきを隠さず返事をした。仕方がないとはいえ、嫌みを言われるのはやっぱり腹が立つ。
…それにしても、この耳障りなノイズはなんだろう?
「シンジ、何してるの?後ろがすごくうるさい――」
「本当に馬鹿だな、お前」
受話器からと、視界の外から聞こえた、同じ台詞に同じ声。
え、と思わず声を上げたヒカリが振り返ると、ポケギアの通話を切り、歩いているシンジが見えた。
「な、なんで、もういるの…!?」
ヒカリは慌てて言った。
電話を掛けたのはついさっきだ。そして彼がいたはずのポケモンセンターはここから遠くはないが、決してその間に着けるほどの距離ではない。
「遅いと騒がれるのも鬱陶しい。だから、先に出ていただけだ」
シンジはヒカリの傍まで来ると立ち止まり、手に持っていた何かを投げた。
ビニール袋で包まれたそれを見て、ヒカリは目を丸くした。彼女の上着だ。
「早く着ろ。風邪で旅に支障が出ると困る」
ヒカリは再び驚いて、じっとシンジを見つめる。
それから、嬉しそうににっこりと笑った。
「ありがと、シンジ!」
二つの雨傘が並んで、大木の影から出て行く。
ヒカリはにこにこと笑って、今の幸せをしっかりと噛みしめて、思う。
部屋についたら温かい飲み物でも奢ってあげよう。
そうして二人、今度は寄り添っていれば、きっと雨が止んでもシンジは優しいし、自分も今以上に幸せに違いない。
ようやく一つかけた…!やたー!
不思議と短いけどね!(…)
不思議と短いけどね!(…)