ふっ、と目を覚ました。
普段は二度寝をしがちなあたしにしては珍しく、すんなりと体を起こすことができたけど、どうやら世界はまだ夜のようだった。視界に映る全ての物に深い青色がかかっているようで、部屋は薄暗かったが、完全な真っ黒ではなかった。
横から差しこんでくる白い光が、あたしのベッドを照らし出しているからだ。強烈というわけではないのに、それは静かに闇を切り裂いている。
…外、出てみようかな。
あたしはベッドから降りて大きな窓に向かい、鍵を開けようとして――あ、と手を止めた。パジャマ一枚ではさすがに寒い。
何かないかな、と辺りをぐるりと見回してみる。その結果、あたしは丁度良い"忘れ物"を見つけた。夜に似ている色をした、誰かさんの上着。横のイスに掛けられたままだったそれを手に取って羽織ると、今度こそ、窓をゆっくりと横へ滑らせた。
かなり大きめなその上着のおかげか、寝起きだからか。パジャマ一枚の割りに寒くは感じなかった。
あたしは備え付けのサンダルを突っかけ、ベランダの手すりまで近づき空を仰いだ。黒に近い青を背景に、周りに星をちりばめて、その主役は自分と言わんばかりに一際輝いている、白い円。
今日って満月だったんだ…そう思いながら、その美しさに息を吐く。しばらくそれを見つめてから、ふと視線を移してみる。その先は、ベランダで繋がっている隣の部屋の窓。そこには、当たり前だけど、人影はない。
…でも、こんな綺麗なんだもん。見ないともったいないよね?
サンダルをぺたぺたと鳴らしながら、目当ての部屋の前まで進む。そして、とんとん、と五月蠅くない程度に窓を叩いた。
からり、窓が開く。
「……お前、今何時だと思ってるんだ?」
声はいつもと変わらないのに、シンジの眉間の皺レベルはかなり高かった。なによ、せっかく教えに来てあげたのに。悔しいから、あたしも頬を膨らませた。
「分かんないけど…シンジも起きてたんでしょ?」
図星だったんだろう。シンジは何も言わずに不機嫌そうにしていたけど、ふと、眉間の皺が消えた。あたしの姿をじっと見つめている。どうやらちょっとだけ、驚いたみたい。
「なんで俺の上着を着てるんだ」
「あたしの部屋に置いてあったし。あと寒かったから」
「お前が、寝てたせいで、取りにいけなかったんだがな」
「う…まぁいいじゃない。あったかいから、もうちょっと貸して?」
せっかくなんだし、ダメで元々のつもりで頼んでみる。一蹴されるかと思ったけど――実際、シンジはかなり呆れたようで、本当に仕方がないといわんばかりの様子だったけど――それでも、きっちり頷いてくれた。それだけだっていうのに、なんだかすごく嬉しい。
そういえばシンジの服着てるんだって改めて実感して、照れまじりにえへへ、と笑うと、シンジが何故か小さくため息を吐いて向きを変え、どこかへ歩き出した。
「早く入れ。窓を閉めるぞ」
「え?待って、一緒に月、見ようよ」
ほら満月だよ!と指さすと、見れば分かると返ってきた。振り向きもしないで。…見てないじゃないの!
そう、あたしがむくれたのがまるで見えていたかのようなタイミングで。
「窓を閉めて大人しくしてろ。――何か淹れてくる」
ぼそり、最後にそう付け加えた、その背中が奥に消えるのを呆然と見送った後。あたしはどうしようもなく緩んでしまった頬もそのままに、自分の体を上着ごとぎゅっと抱きしめた。
誰だこれ…シンジじゃないよ…(汗)甘いけど。
でも15,6ぐらいの2人は、こんな感じだと嬉しいかな、と。